SAR ADC(逐次比較) (1)

SAR ADC(Successive Approximation Register ADC, 逐次比較A/Dコンバータ)はとてもポピュラーなA/Dコンバータです。

たとえばマイコンには、10~12bit 程度のSAR ADCが内蔵されており、手軽に使うことができます。センサなどのインターフェイスとして使うと、いろんなシステムに応用できます。マイコンに内蔵されたSAR ADCは、だいたい10us~2us程度の変換時間です。

マイコン以外の専用ICでは、スピードは10kSps~1Msps、分解能は10~16bitのものが一般的です。

上記は、秋月電子通商で一番安いSAR ADCです。MCP3002(Microchip Technology, 10bit, 200ksps, ¥200@秋月)。マイコンに入っているADCとだいたい同じくらいの性能で、センサとかのたいていの用途には十分です。10bitっていうことは、0.1%っていうことです。0.1%っていわれるとなかなかスゴイですけど、16bitなどというものも普通に売られています。秋月には無いですが。ただ、そういうクラスはお値段も素敵です。

SAR ADCは、主にDACとコンパレータとSARロジックから出来ています。入力信号電圧とDAC出力電圧を比較して、両者が最も近づくようにDACを操作して、最後にDACに入力しているコードが入力信号電圧に相当するコードであるというものです。コードの検索にはほとんどの場合、二分検索が使われます。逐次比較(Successive Approximation)という名前は、並列型のように複数のコンパレータが同時に動作するタイプと対比して、このように名づけられているのだと思います。

現在のSAR ADCは、スイッチドキャパシタ技術に基づいて作成されています。MOSトランジスタは理想的なスイッチとして使用することができますので、現在の集積回路の主流であるCMOSプロセスにマッチしています。本当のことを言えば、世の中のほとんどのADCはCMOSプロセスで作られていて、スイッチドキャパシタ回路です。Pipeline ADCも、ΔΣADCも、みんなスイッチドキャパシタです。Pipeline ADCは数MSps以上の領域、ΔΣはオーディオ用の領域で使われる方式です。

他の方式に対するSARの利点の一つは、内部にアンプが不要なことです。その分回路が簡単ですし、電力消費も抑えられます。

CMOS集積回路では、トランジスタを小さくすればするほど速度が速く、電力消費が小さく、面積が小さくて済む、という原則があります。これをスケーリング則と言います。経済的に許される面積のシリコンに、できるだけ多くの素子を詰め込んで、高速に動作させたいという要求から、2010年現在ではトランジスタのゲート長は28nmくらいが使われています。また、スケーリングの原則は、電源電圧もスケールする必要があって、現在では0.9V程度にまで下がっています。こういった電源電圧が低い領域では、アンプを作るのが難しいので、SAR ADCが向いていると言われています。

SAR ADCの変換速度は、主にコンパレータが入力信号とDAC出力の大小関係を判定するのに必要な時間で決まっています。微細プロセスでSAR ADCを作ると、スケーリングメリットをモロ享受することができて、コンパレータがスゲー速く動くので、変換速度を速くできて、従来はPipeline ADCを使っていた変換速度領域でもSAR方式を使えるようになります。例えば数十MSpsくらいは普通に作れます。もっとも、Pipelineも負けじと速くなっていくので、両者は仲良く住み分けているようです。

速くなるのは良いことに違いないのですが、実は、早くしないと電荷がもれちゃう、という側面もあります。スケーリングというのは、MOSのしきい値(MOSのONとOFFをの境目)も小さくすることが原則で、微細化の程度に応じてちょうど良い値になるよう製造されています。しきい値を下げ過ぎるとMOSはOFFしなくなってしまってジャージャーと電流が流れてしまうし、上げ過ぎるとスピードが遅くなってスケーリングした意味が「?」になってしまいます。実は、現在の電源電圧0.9Vというのは、結構限界に近い電圧にまで達しており、スケーリングはほぼゴールイン状態です。こういった先端的な微細MOSでは、従来のように完全にOFFすることを望めませんので、スイッチドキャパシタ技術に基づいたSAR ADCでは、なるたけ速く変換を終えてしまわないと、貯めておいた電荷がもれてしまうわけです。特に、温度が高くなるとモレが急増します。ちょうど穴の開いたバケツと同じで、速く運ばないともれて無くなってしまうワケです。

そもそも、最先端の製造プロセスで製造することが望ましいLSIは、規模が大きくて大量に消費されるものです。例えば、intelのプロセッサ、XilinxのFPGA、SamsungのDRAM、ToshibaのFlashなどです。他に、キヤノンのDigicとか、機器専用のLSIもそうです。ただ、こういうチップにまで無理してADCを載せる合理性があるかどうかは、よく分かりません。まぁ、研究する人も、色々自分で課題を見つけないと食っていけないですから、いろんな方向に挑戦しているようです。ボクら一般人が使って楽しいADCは、秋葉原の路上やDigikeyで売ってて、電源電圧が2.7V~5.5Vくらいのものですよね。

以上、すごく適当に書きましたけれど、ICの中身が分かると使うのがもっと面白くなります。SAR ADCの内部構造は結構巧みで面白いので、次の機会に書いてみようと思います。

コメント

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